【コラム】「電話は取るな」と言われた日から変わった私の働き方

衝撃的な一言が変えた私の働き方

2007年に中途入社した会社(20名ちょっとの法務部に所属)で、1年が経過した4月頃のことでした。

新入社員が入ってきたタイミングで、京大法学部出身のOJTから突然、こう言われました。

「電話はもう取らないように。」

正直、驚きました。「電話を取るな」と言われたのが初めてだったからです。

その部署で最も経験が浅い私は、その分少しでも多くの「小さな仕事」を拾うことで周囲の人たちに貢献しようと必死でした。他部署からの電話であれば、1コールが鳴り終わるかならないかで受話器を掬い上げて名を名乗る。他の人には取らせない。電話を取ることも、そんな貢献の一つだと信じていたのです。

また、当時、多くの会社で「電話を取るのは女性の仕事」のような風潮もまだ残っていました。(きっと今でも、そういう会社は多いことでしょう。)

「本当に取らなくていいのかな?」

少し、心配でした。しかし、そのOJTは続けてこう説明してくれました。

「電話は、部署の仕事を理解し、早く馴染んでいくためにも新入社員がとった方がいい。そして、あなたには次のステップに進んでほしい。」


実力差を「貢献」で埋めようとしていた私

振り返ってみると、私は周囲の人との実力の差を、ひたすら「貢献」で埋めようとしていました。電話を取る以外にも、とにかく少しでも周囲の人よりも多くの「小さな仕事」を拾って、みんなの負担を軽くすることで自分の価値を作っていこうとしていたのです。(そのガッツを評価してくれる上司もいました。)

このような当時の私の働き方を、就職氷河期世代の方の中には、理解してくれる方も多いでしょう。(ちなみに、私は初期の就職氷河期です。)厳しい就職活動を経験し、やっと掴んだ職場で必死に居場所を確保しようとする。その結果、「何でもやります」「どんな仕事でも拾います」という姿勢が身についてしまっていたのです。


変化は新入社員にも良い影響をもたらした

実際に私が電話を取らなくなると、新入社員の男性が電話を取るようになりました。もちろん、最初は取らないので、呼び出し音がオフィスに盛大に鳴り響き、ちょっとヒリつく微妙な空気が部署内に立ちこめます。

ところが、しばらく経つうちに、彼は積極的に電話に出るようになったのです。

今になって思えば(約20年前ですが)、OJTの彼には「ジェンダーバイアス」(電話を取るのは女性の仕事、という無意識の決めつけ)がありませんでした。それゆえに、当然のように「電話はもう取らないように。」「あなたには次のステップに進んでほしい。」と言うことができたのでしょう。

おかげで私は、安心して次の役割に進むことができました。彼の一言で、私は「自分の可能性を小さく見積もる、無意識の自分縛り」から解き放たれたのです。

そして、新入社員の彼は、勇気を出して電話を取るようになったことで、彼なりの居場所ができたようにも見えました。


2025年現在も続く同じパターン

驚くことに、2025年現在でも、当時の私と同じような考え方をしている女性たちに出会います。

彼女たちは「活躍したい」という強い希望を持っているにも関わらず、「自分の可能性を小さく見積もる、無意識の自分縛り」によって、自分自身のキャリアや成長を阻んでいるのです。

その背景には、承認欲求、不安感、完璧主義、責任感などが複雑に絡み合っているように感じます。(当時の私もそうでした!)「認めてもらいたい」「失敗したくない」「完璧でありたい」「他の人に迷惑をかけたくない」という思いが、結果的に自分を小さな仕事に縛り付けてしまっているのです。


よく考えたら本末転倒?悪循環から抜け出そう!

もし、そのような状態に陥っている方がいらっしゃれば、一度、以下のような質問を自分に投げかけてみてもいいのかもしれません。

「そのような働き方は、本当に組織にとってのbestな解なのでしょうか?」

「その考え方は、部下や後輩に、どのような影響をもたらしているのでしょうか?」

「今の年齢は?そして、いつまでその考えを持ち続けますか?」

「本音ベースでは、不満を感じていませんか?」

「本当にやるべきことから自分を遠ざけていませんか?」

もし、これらを考えている時に、なにかしらの心の動きを感じたら、そろそろ考え方を変えるタイミングに差し掛かっているのかもしれません。

まずはそんな自分の行動に気づくこと。そして、その行動にどのような気持ちが隠れているのかに気づくことが大切です。


おわりに

あの時のOJTの言葉は、私の成長と後輩の成長、そして組織のあるべき姿をイメージした上でのアドバイスでした。改めて、OJTへの感謝の念が湧いてきます。

みなさんもぜひ、ご自身の働き方を再確認してみてください。

あなたにはもっと、あなたに相応しい役割があるのかもしれません。

りっか

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