【コラム】「ロールモデルがない」というみなさんが陥る思考の罠と、そこから抜け出すための実践的思考法

セッションでキャリアを扱っている最中に、時々耳にする言葉があります。

「ロールモデルがいないんです」「お手本にしたい人が見つからなくて...」

今日は、この言葉を口にするみなさんの「よくあるパターン」と「そこから抜け出す方法」について考えていきたいと思います。

まずは、この言葉を口にするみなさんがどのような思考パターンに陥っているのかをみていきましょう。実は、このパターンこそが、理想の働き方やキャリアを見つけることを妨げている可能性があるのです。


5つの典型パターン

完璧主義の罠にハマっている

「理想のロールモデル」として、「すべてが」完璧な人を探していることがあります。

- 仕事ができて、プライベートも充実していて(例:営業成績トップなのに、毎日定時で帰って家族との時間も大切にしている)

- 人望もあって、見た目も素敵で(例:部下からも上司からも慕われ、いつもオシャレで隙がない)

- 失敗した姿を見たことがない(例:プレゼンで失敗したり、落ち込んでいる姿を想像できない)

このような「完璧超人」を探し続けている限り、ロールモデルは永遠に見つかりません。なぜなら、そんな人は存在しないからです。

受動的な「待ち」の姿勢

「素敵なロールモデルが現れるのを待っている」という受け身の状態に陥っていることがあります。

- 会社が研修で紹介してくれる人を待つ(例:「来月の管理職研修で、きっと素敵な講師の方が来てくれるはず」)

- メディアで取り上げられる成功者を眺める(例:「テレビで見た起業家の○○さんみたいになりたいけど、雲の上の人すぎて...」)

- 周りの人が「あの人すごいよ」と教えてくれるのを期待する(例:「先輩が「この人を見習いなさい」って言ってくれる日を待っている」)

ロールモデルは「与えられるもの」ではなく「見つけるもの」「作り上げるもの」です。

視野が狭すぎる問題

探す範囲を無意識に制限していることが多々あります。

- 同じ会社の先輩だけ(例:「うちの会社には憧れる人がいない」と諦めてしまう)

- 同じ業界の人だけ(例:IT業界にいるのに、他業界の営業手法から学ぶ発想がない)

- 同じ年代・同じ性別の人だけ(例:30代女性が20代男性の行動力を「私とは違う」と最初から除外する)

- 現在成功している人だけ(例:失敗を乗り越えている最中の人の話を「負け組の話」として聞く耳を持たない)

この制限により、本当に学べる人を見逃している可能性があります。

他人と自分の比較に終始している

「あの人は○○だけど、私には○○がない」という比較思考で止まってしまいがちです。

- 学歴が違う(例:「あの人は有名大学出身だから成功できたんだ」で思考停止)

- 環境が違う(例:「あの人は恵まれた家庭で育ったから」「東京勤務だから機会が多いんだ」)

- 才能が違う(例:「あの人は生まれつきコミュニケーション能力が高い」「私には営業のセンスがない」)

- タイミングが違う(例:「あの人は会社の成長期に入社できてラッキーだった」「今の時代は厳しいから」)

違いを見つけることに集中しすぎて、学べる部分を見逃してしまうのです。

表面的な成功のみに注目する

目に見える結果や華やかな部分だけを見て、その背景にある努力や失敗、思考プロセスに注意を向けていない傾向があります。


なぜこの思考パターンから抜け出せないのか?

これらの思考パターンが生まれる背景には、きっとみなさんも思い当たるであろういくつかの要因があります。

学校教育での「正解探し」の刷り込み

「一つの正しい答えを見つけること」を求められ続けた結果、キャリアにおいても「一つの正しいロールモデル」を探そうとしてしまいます。

SNSによる「完璧な他人」への過度な憧れ

他人の成功や幸せな瞬間だけを切り取ったSNSの情報に慣れすぎて、リアルな人間の多面性を見る目が曇ってしまっています。

失敗を恐れる安全志向

「正解のロールモデル」を見つけてから行動しようとする姿勢は、実は失敗を回避したい気持ちの表れでもあります。


思考転換のための4つのアプローチ

では、どうしたら、自分に合ったロールモデルを見つけ、自らも理想の自分に近づいていくことができるのでしょうか?

アプローチ1:「完全コピー」から「部分採用」へ

一人の人をまるごと理想化するのではなく、複数の人から特定の要素を学ぶ発想に転換しましょう。

実践例

- Aさんのプレゼンテーション力(例:データを使って説得力のある資料を作る技術)

- Bさんの時間管理術(例:To Doリストの作り方や、会議の効率的な進め方)

- Cさんの部下との接し方(例:叱る時も相手の気持ちを傷つけない言葉選び)

- Dさんの学び続ける姿勢(例:忙しい中でも毎朝30分、業界ニュースをチェックする習慣)

このように「パーツ単位」で学ぶことで、現実的で実践しやすいお手本が見つかります。

アプローチ2:「憧れ」から「観察」へ

感情的な憧れではなく、客観的な観察に基づいて学ぶポイントを見つけましょう。

観察のポイント

- その人はどんな時に、どんな行動を取るのか?(例:クレーム対応で困った時、まず相手の話を最後まで聞いている)

- なぜその判断をしたのか?(例:残業を断る時、「今日は子供の迎えがあるので」と理由を明確に伝えている)

- どんな価値観に基づいて動いているのか?(例:「チームの成果を個人の成果より優先する」という考えが行動に表れている)

- 困った時、どう対処しているのか?(例:分からないことがあると、恥ずかしがらずにすぐ詳しい人に聞きに行く)

具体的な行動パターンや思考プロセスに注目することで、真似しやすい要素が見えてきます。

アプローチ3:「遠い存在」から「身近な存在」へ

有名人や成功者だけでなく、身近にいる人の優れた部分に気づく目を養いましょう。

身近なロールモデルの例

- いつも机が整理されている同僚(例:「この人の机を見ると、どこに何があるか一目瞭然。私も真似したい」)

- 難しいことを分かりやすく説明してくれる先輩(例:「専門用語を使わずに、例え話で教えてくれるから理解しやすい」)

- 忙しくても笑顔を絶やさない人(例:「締切前でも「おはよう」の挨拶が明るくて、周りの雰囲気が良くなる」)

- 新しいことを学ぶのが上手な人(例:YouTubeやオンライン講座を活用して、効率的にスキルアップしている)

日常の中にこそ、学べる要素がたくさんあります。

アプローチ4:「理想の自分」から逆算する

「こんな人になりたい」というゴールを明確にしてから、そのために必要な要素を逆算で考える方法です。

逆算思考の手順

1. 3年後の理想の自分を具体的に描く(例:「部署のリーダーとして、チームメンバーから信頼され、新規事業の企画も任されている」)

2. そのために必要なスキル・知識・経験をリストアップ(例:マネジメント力、企画力、プレゼン力、業界知識など)

3. 各要素を既に持っている人を探す(例:マネジメント力なら隣の部署のB課長、企画力なら新規事業部のCさん)

4. その人から学べることを特定する(例:B課長の1on1の進め方、Cさんの市場調査の手法)


実践的なロールモデル発見法

週1回の「学び記録」をつける

毎週末に、その週に出会った人の中で「いいな」と思った行動や考え方を記録してみましょう。

記録する項目

- 誰の、どんな行動・発言だったか(例:「営業のDさんが、お客様への提案資料に手書きのメッセージを添えていた」)

- なぜそれが印象に残ったのか(例:「デジタル化が進む中で、手書きの温かみが差別化になると思った」)

- 自分も真似できそうな部分はどこか(例:「メールにも一言、手書き風のコメントを添えてみる」)

- 来週試してみたいこと(例:「次回の提案書に、ちょっとした手書きメモを付けて送ってみる」)

「なぜ?」を3回繰り返す

気になる人や行動に出会った時、「なぜそう思うのか?」を3回深掘りしてみましょう。

例:「あの人のプレゼンが分かりやすかった」

→ なぜ分かりやすかったのか?「具体例が多かったから」

→ なぜ具体例を使うと分かりやすいのか?「相手の経験と結びつけやすいから」

→ なぜ相手の経験と結びつけることが大切なのか?「共感や理解を生むから」

このように掘り下げることで、表面的でない学びを得られます。

多角的な視点で人を見る

一人の人を、異なる角度から観察してみましょう。

観察の視点

- 仕事での振る舞い(例:会議での発言の仕方、メールの書き方、報告書の構成など)

- 同僚との関係性(例:雑談の内容、困った人への接し方、チームワークの築き方)

- 困った時の対応(例:クレーム処理、システムトラブル時の冷静さ、失敗した時の立ち直り方)

- 新しいことへの向き合い方(例:新システム導入時の学習姿勢、異動時の適応力)

- プライベートでの過ごし方(例:ランチ時間の使い方、有給の取り方、趣味の話から見える価値観)

人は状況によって異なる顔を見せるものです。多面的に見ることで、より学びが深くなります。


「ロールモデル不要論」という選択肢

実は、ロールモデルを無理に見つける必要はありません。ロールモデルがなかったとしても、それ自体を不安に思う必要はないのです。

(私自身、ロールモデルをこれまで見つけようと思ったことも、誰かをロールモデルにしたこともありません。)

自分が初代になる発想

前例のない道を歩む時、あなた自身が後続の人たちのロールモデルになるかもしれません。試行錯誤しながら道を切り拓くことにも、大きな価値があります。

失敗から学ぶことの価値

完璧なロールモデルよりも、失敗を乗り越えた人の経験談の方が、実際のキャリアでは役に立つことが多いものです。


今日からできる3つのアクション

ここまでの内容を踏まえ、今日からできるアクションを3つにまとめました。ぜひ、やってみてください。

アクション1:身近な人の「いいところ探し」

今週、一緒に働く人の中から、一つでも「真似したい」と思う行動を見つけてみましょう。

アクション2:理想の自分を言語化する

1年後、どんな風に働いている自分でありたいかを、具体的に書き出してみましょう。

アクション3:学びの記録を始める

今日から1週間、気になった人の行動や発言を、スマートフォンのメモ機能で記録してみましょう。


まとめ:ロールモデル探しは手段であり、目的ではない

ロールモデルを見つけることは、あなたらしいキャリアを築くための一つのツールに過ぎません。

大切なのは、完璧な「答え」を見つけることではなく、日々の仕事の中で「学び続ける姿勢」を持つことです。

明日から、周りの人を少し違った目で見てみませんか?きっと、今まで気づかなかった「学べる要素」がたくさん見つかるはずです。

そして、いつの日か振り返った時、「ロールモデルがない」と悩んでいた時期が、実は一番多くのことを学んでいた時期だったと気づく日が来るかもしれません。

りっか

「りっか」は、企業のメンタルヘルス、ハラスメント防止、コミュニケーションスキル向上、人材育成をサポートする専門コンサルティングサービスを提供しています。私たちは、経営者・人事・上司の皆様が直面する様々な課題に対し、具体的で実践的な解決策を提供し、健全な職場環境の実現を目指します。